医療統計学における医療に対する理解
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医療統計学における医療に対する理解
さて、測定値というものが理解出来たところで、今度はその測定値を医療という高い次元で見てみましょう。
先の体温の話に戻りますが、自分の体温を測ったら、37.2度だったとします。
これをどう解釈するか。何も考えずに、平熱以上だからと、会社を休むかどうか。
最初のステップとして、先の測定値に対する理解は必要です。
正規分布のばらつきも考慮し、何回か繰り返し測りました。それでも、3回測った平均は37.2度でした。
さて、次のセカンドステップとして、体温にまつわる医学の知識が必要となります。
体温に影響を与える要因はたくさんあります。
運動の最中は新陳代謝が活発になり血流も増えるので体温は上昇します。
入浴もお湯の温度と比例して血管が広がり体温が上昇し、入浴後ももとの体温に戻るまで時間がかかります。
食事中は消化管の機能が活発になり、代謝も活発になるため体温が上昇します。
女性の場合、排卵後の黄体ホルモンの影響で体温が平常より少し高めになります。
また、1日のうちでも起床後から午前中は低めで、午後は一般に高めです。
さあどうでしょう。体温と一口にいっても実は奥深いのです。
したがって、医師が解熱剤を処方する場合でも、患者の状況をねほりはほり聞き出すことが大切です。
体温が単に平熱より高いという理由だけでパーンと解熱剤を出す医師は間違いなく三流の医師です。
これは極端な例かもしれませんが、少なくとも医療従事者がデータを扱う以上、医療統計学に関する知識は必要不可欠です。
そして医療統計学では、測定値に関する統計学的理解に加え、その測定値に関連する医学的理解が必要なのです。
特に、「いつどのような状況でその測定値を測定したか」という情報がとても大事になります。
また、まれではありますがたとえば薬の血液中濃度のように、測定値が正規分布にならないこともあります。
医療統計学では、確かに統計学の基礎知識は必要ですが、プラスアルファで医療・医学の知識が必要になってきます。
このような言い方をすると、医療統計学は統計学だけでなく医療も含め、たくさんのことを勉強しなければならない、大変だ、と思われるかもしれません。
しかしながらそうも言っておられず、医療統計学は今や医療において必要不可欠なスキルとなっています。
医師、看護師、薬剤師、医療技師、医療会計士、製薬メーカーのスタッフ、医療機器メーカーのスタッフ、厚生労働省の職員など、医療に携わる人すべてに必要不可欠なスキルといえます。
残念ながら、多くの医療従事者は医療統計学をハードルが高いと感じていて、医療統計学の重要性の認識が、未だに十分でないという現実があります。
これは大きな問題であり、今日、医療従事者なら誰でもある程度の医療統計学の知識がないと、最先端の医療についていけない時代となっているのです。
昔は医療統計学というと、専門家でないと理解できないような学問領域と考えられていました。
特に多変量解析などの複雑な統計解析は、1980年代までは専門家が大型計算機でないと計算できないような時代でした。
それが、今や簡単にPCで計算できるようになり、ソフトもRという無料ソフトでかなり高度な解析が出来るようになりました。
医療統計学のインフラストラクチャーは今日ではかなり整備され、臨床データを解析し、学会発表や論文発表をしたりすることは昔に比べかなり容易になりました。
インフラが整備されたこと自体は良いことなのですが、これにより医学論文の付加価値が上がり、昔は稚拙な統計解析でも堂々と公表されていたのが、今日ではトップクラスの医学論文にはトップクラスの医療統計学者がレビューに加わり、稚拙な解析をしたら不採用とされるようになりました。
そこでより洗練された解析を専用の統計解析ソフトを使って実行しますが、解析の過程がブラックボックスのため、得られた解析結果を十分に理解しないまま公表することになります。
表面上は医学論文のレベルは上がっているように見えても、書いた本人が十分理解出来ていないという不可解な現象が起こります。
書いた本人がわからない論文を、読む立場の医療従事者が理解できるはずがありません。
医療統計学の知識が不足していることで、医療関係者とコミュニケーションをとる上で、あらゆる面でほころびをきたしているというのが現実なのです。
このほころびを修復するのは教育しかありません。
医療統計学を大学教育のカリキュラム盛り込んだり、インターネット上で医療統計学の情報発信をしたり、優れた書籍や本稿のようなメディアを活用してその重要性を啓発して、医療統計学をより身近なものにしていくことが先ずは大切です。
もっと勉強したい方は⇒統計学入門セミナー
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