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医療統計学的論文の読み方:臨床試験の吟味
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医療統計学的論文の読み方:臨床試験の吟味
臨床試験に関する重要な観点は、簡潔な本質的な問いと,より詳細な具体的な問いに分けられます。
各観点について説明を行ない,最後にこれらの問いのリストと,標準的な問いのリストを結合します。
結合されたリストは,臨床試験を批判的に吟味するための完全な手引きを提供します。
臨床試験は,特定の治療の有効性を評価するための方法です。
本質的に言って,臨床試験とはある治療ともう一つの治療を比較し,どちらが優れているかを判断する方法です。
臨床試験にとって鍵となる要件は,比較が公正に行なわれることです。
吟味のための本質的な問いは、比較の公正さに影響を与える可能性がある主たる原因について行ないます。
@治療をランダムに割り当てているか
A研究に含めたすべての患者について説明しているか
Bアウトカムは盲検法によって評価しているか
具体的な問いも、治療を比較するにあたって不公正さを引き起こしている可能性がある原因を探るものです。
しかしその一方で,不公正さの問題だけでなく実験の全体的な質もチェックします。
本質的な問いの結果、比較は公正であると思われるとしても,具体的な問いを行なってみて全体の質が悪ければ、研究には疑いの目が向けられることになります。
また,具体的な問いによって,知見が.より広範な意義をもつかも検討できます。
どの程度知見を一般化できるかは,研究をどのように行なったのか,つまり,患者のタイプ,治療の性質,アウトカムの評価方法に依存しています。
@被験者の選択方法が治療の効果サイズに影響を与えているか
Aどのようにランダム化しているか
B治療および治療の運営についての記述はあいまいでないか
C盲検法を使わなかったことでバイアスを発生させていないか
Dアウトカムは臨床上の意義があるか
Eベースライン時点で治療群同士は比較可能か
F計画した治療からの逸脱を報告しているか
G治療の意図(intention to treat)にしたがって結果を分析しているか
H効果サイズは臨床上重要か
I副作用を報告しているか
公正な比較を行なうためには,2つの治療に対し,似たタイプの患者を割り当てなければなりません。
この割り当てを達成するには,いずれかの治療に患者をランダムに割り当てるのが一番よいとされています。
またその過程では,人間の心の弱さによる誤りを避けるためにコンピュータで生成した乱数を利用するのが一般的です。
ランダム化を用いなければ、2つの治療を受ける患者に系統的な差があるように見えてしまいます。
「準ランダム化(quasi-randomised)」という用語は,危険信号です。
準ランダム化とは通常,研究者にとって簡便な方法(たとえば,曜日ごとの割り当て)を用いて,患者を各治療に割り当てることを意味します。
しかし,簡便な方法を用いると, グループ間に微妙な差が生まれやすくなります。
研究に含めたすべての患者について説明しているか
臨床試験を進めていく過程で,患者と接触できなくなることもあるでしょう。
臨床試験の際に懸念されるのは,接触できなくなった患者が多少なりとも例外的ではないかということです。
たとえば.重症で移動することもままならないため、予定通り参加できないのかもしれません。
あるいは、完全に回復したため参加する必要性はないと思っているのかもしれません。
試験している治療の一つが真に効果的な場合には,回復した患者は参加をやめてしまいます。
あるいは,効果がほとんどない場合には,症状の重い者は参加しないのかもしれません。
患者の一部が,追跡調査の途中でいなくなってしまう理由を知ることはできません。
しかし,患者がランダムに割付けされていても,その多くが欠損してしまったとしたら,比較の公正さに疑問が生じるでしょう。
特に一方の治療群がもう一方の治療群よ りも,より多くの患者を失っている場合はとりわけ問題です。
アウ卜カムは盲検法によって評価しているか
治療のアウトカムを評価するために臨床的判断が必要とされる場合には,主観的な見方が入り込みやすくなります。
新しい治療法に熱意をもっている研究者の場合、無意識のうちに、その治療法を受けた患者に対してよりよい結果を記録するかもしれません。
逆に,こういうバイアスが起こりうることを知っている研究者の場合、過度に埋め合わせをして、もう一方の治療によりよい評価を与えてしまうかもしれません。
治療の結果を評価する人が各患者がどの治療を受けたのか知らなければ.この問題は防げます。
被験者の選択方法が.治療の効果サイズに影響を与えているか
治療効果を評価するためには,研究対象の患者が.どこから入手された,どんな性質をもった人たちかを十分に記述する必要があります。
専門病院で診察を受けている重症の患者にとって非常に効果な治療であっても、一般開業医で受診しているずっと軽症の患者にはあまり効果がないということはありえます。
そこで示されなければならない情報とは、
@患者を蘇った環境(地域,病院,あるいは専門医療機関)
A?実験参加の診断基準
B患者を研究から除外した要因(たとえば.治療に対する 不適応)
C研究参加時点での病気の罹患期間および重症度の記述
これらの情報によって.読者は,研究の知見を別の場面にどの程度適用できるかを判断することができます。
そして,特に「この治療は私の患者を救えるだろうか」という問いに答えることが容易になります。
どのようにランダム化しているか
患者のランダム化は、ランダム化コード(randomisation code)が見破られる可能性が最小になるように行なうベきです。
したがって,そのランダム化の過程がどのように行なわれたかを報告すべきです。
以前は、ランダム化コードを一つひとつ密封した封筒に入れておくこともありました。
しかし最近は,別の場所にある実験センターで管理するのが普通です。
新たな患者が実験に参加するたびに,臨床医がセンターに電話をかけコードをもらいます。
たとえば,薬の実験をするとき,2つの薬を外観が完全に同じパッケージにして、一方にはA、もう一方にはBというラベルを貼ります。
臨床医は、一人ひとりの患者にこれを与え,治療群がどちらか分からないようにします。
治療および治療の運営についての記述はあいまいでないか
自分自身の臨床に用いるためには,臨床試験が検証した治療が詳述されていなければなりません。
情報がなければ、研究者以外の人が,自分自身の臨床において効果的な治療を用いることは難しいでしょう。
そもそも,治療方法の詳細が計画されていないとすると、すべての研究対象者一人ひとりに治療がきちんと施されているとは限りません。
このような場合には,治療の効果サイズは小さくなるでしょう。
盲検法を使わなかったことでバイアスを発生させていないか
それぞれの患者がどの治療を受けたのかが知られてしまうと,いくつかのルートからバイアスが入り込む場合があります。
すべての関係者?患者,臨床医、統計分析担当者?は,治療の詳しい内容について知らないほうがよいのです。
高価で新しい薬品を摂取していると信じている患者が,実際の状態よりもよい状態だと報告することがあります。
そのメカニズムはいまだに分かっていないのですが、.こうした患者が臨床上の恩患を実際に得ているというエビデンスがあるのです。
また,治療に当たっている医師による患者に対する扱いが、.医師が治療について知っていることで影響を受けることがあります。
効果的でないと考えられる治療を受けている群の患者に対しては,他の群の患者より,面倒を見て注意を払うことがありえます。
患者の治療群を知っていることが,患者の全般的な取り扱いに影響を与えると,バイアスをもたらしうるのです。
本質的な問いでは,アウトカムの評価にあたって生じるバイアスは取り上げました。
しかし統計分析にあたって生じるバイアスは取り上げませんでした。
統計分析を行なう者が.どちらの治療群がどちらの治療を受けたのかを知っていたら、一方の治療を支持するような差を示すデ一夕を探す誘惑にかられるかもしれません。
その治療を支持しないような目立たない差は無視され,支持するような差だけが報告されるでしょう。
データを捻じ曲げた形跡がある場合には,治療群を知っている状態で分析が行なわれた可能性があります。
アウ卜カムは臨床上の意義があるか
治療が有効であるかどうかを判断することは必ずしも容易ではありません。
ある種の疾病には,有効さの明確な基準が存在します。
たとえば,がんについては.患者の生存時間の長さがその基準です。
しかし,それ以外の疾病,たとえば、リウマチのような疾病については,死亡するまでの時間といった明確な尺度は適切ではありません。
症状のさまざまな疾病と関連した身体の可動性,あるいは生活の質(quality of life)といった代替的な尺度を用いる必要があります。
治療の効果を測定するにはさまざまな方法がありますので,測定に用いられた尺度が,その疾病の管理を評価するための最良の方法かどうか検討する必要があります。
最も極端な場合には,治療が,疾病の一側面(症状の程度や患者の満足)を改善させる一方、別の側面(深刻な合併症あるいは死亡)を悪化させるかもしれません。
よって,短期的な尺度(たとえば2週間後の患者の状態)は特に疑わしいといえます。
複数のアウトカム尺度が用いられている場合には,そのうちどの尺度を治療の有効性を判断する主たる尺度として用いるかをあらかじめ明示してあることが望ましいです。
明示してあれば,多くの尺度のなかから(擬似的に)統計的に有意な結果を与える尺度だけに注目し,有意な結果を与えない尺度を軽視するという,多重検定の危険を防ぐことができます。
ベースライン時点で治療群同士は比較可能か
治療のランダム割付けは,患者を各治療へ割付ける際にバイアスが発生するのを防ぐために用いられます。
ただし, この方法を用いたからといって,研究の開始時点で2つの治療群が等質となるとは限りません。
たとえば偶然のせいで重症の患者が,一方の治療群に,他の治療群よりも多めに割付けられるということは起こりうることです。
そのため,研究の開始時点で両群が類似していたかどうかを知るために,両群を確認する必要があります。
この確認は,予後やアウトカムに強く関連する瑣目に焦点を当てるべきです。
たとえば,抗高血?薬の実験において,薬の効果を.脳卒中または心臓発作のあった患者の数によって測定する場合には、両群が脳卒中と心臓病の主なリスク要因です。
年齢,性別、血清コレステロール,喫煙について類似していることを確認することが必要です。
ベースラインにおいて重要な要因について群間に相違があっても,研究全体が否定されるわけではありません。
注意深い統計分析が,そのような相違に考慮を払うのに役立ちます。
したがって、両群に違いがある場合、分析でその違いを考慮に入れているかどうかが重要です。
計画した治療からの逸脱を報告しているか
いくつかのできごとが,実験の円滑な遂行に影響を与えることがあります。
たとえば,患者が治療に同意しないかもしれない場合です。
副作用や病状悪化による不安のため治療を中止するかもしれません。
他の治療に移されたり新たな治療を追加されたりするかもしれません。
このようなできごとが一方の群でより多く起きると,公正に比較することができなくなります。
両群を管理する方法が異なれば.治療とは関係のない差がアウトカムに生じうるのです。
優れた実験報告は.治療群ごとに発生したできごとを詳細に報告していますので,読者がバイアスの可能性を評価することもできます。
できごとについて詳細に報告していない研究は疑わしいといえます。
治療の意図にしたがって結果を分析しているか
実験の過程で,患者は自分の治療を変えてしまうかもしれませんし,もう一群に割り当てられた治療へと移ることすらあるかもしれません。
何があろうと,分析は患者が当初割り当てられた群ごとに行なうのが一香よいと考えられます。
なぜなら、治療を変えた患者や研究から脱落した患者は,治療を変えなかった患者と系統的に異なっている可能性があるからです。
治療を変えた患者や脱落した患者を分析から除外すれば,研究に参加した時点での2群の間に,違いが持ち込まれます。
治療の比較はもはや公正ではない(治療を変えた)患者を含むことでバイアスが生じるともいえますが.これらの患者を除外してしまうよりは害が少ないといえます。
副作用を報告しているか
望ましくない副作用をもつ治療は数多くあります。
アモキシシリンは吐き気や下痢を催すことがあります。
アミトリプチリンは口内乾燥症や鎮静作用をもたらします。
また外科手術には危険が必ずあります。
したがって,いかなる治療の有益な効果も,副作用と比較検討しなければなりません。
治療の効果が逆効果を上回る場合には,判断はたいていの場合明確です。つまり治療を積極的に進めます。
しかし2つの類似した治療を比較する場合には,治療効果の差よりも副作用の差が重要となることもあります。
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