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医療統計学的論文の読み方:研究論文について問われるべき問い

 

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医療統計学的論文の読み方:研究論文について問われるべき問い

 


研究方法に関わりなく、すべての研究論文について問われるべき問いがあります。

 

これらの一連の問いはチェックリストの一部となりますが、それぞれ必要な理由があります。

 

公表論文で提示される情報の順序に従って,これらの問いを並べると以下のようになります。

 

目的を明確に述べているか
サンプルサイズは正当か
測定に妥当性と信頼性がありそうか
統計手法を記述しているか
研究中,予期せぬできごとが発生しなかったか
基本的なデータを適切に記述しているか
数字はつじつまが合うか

 

目的を明確に述べているか

 

研究の目的を明確に述べ,研究をなぜ行なったのかを説明しなければなりません。

 

これにより,読者はその研究が重要な問題に取り組んでいるかどうかを判断することができます。

 

目的が明確に述べられ焦点が絞られていれば,研究仮説が前もって特定され、その結果よく計画が練られた研究がなされたであろうことを示しています。

 

一方、目的が広範あるいは不明瞭であれば,何か見つからないかと多くのさまざまな問題が追究されていることを示しています。

 

そのような研究は,有用なデータを収集しそうになく,そのうえ,多くの統計的有意性検定を行なって結果を探し回る可能性があります。

 

有意性検定を何度も行なうと.本来は有意でないのに有意な結果が生じる可能性が高くなります。

 

サンプルサイズは正当か

 

研究は,研究目的を達成する可能性が十分にあるときにのみ実施すべきです。

 

そのために本質的に必要なのは,研究は現状を正確に表現するのに見合った大きさでなければならないということです。

 

手順に従えば,まず求める効果サイズ(たとえば2つの治療間に起こりうる差)を特定します。

 

次に.特定した効果サイズを検出するために必要な正式なサンプルサイズを計算します。

 

研究が小さすぎると,臨床的に重要な効果を検出できないこと がしばしばあります。

 

治験が終わった時点では,この「サンプルサイズは正当か」という問いは「研究にはどのくらいの効果サイズを検出するための検定力があったのか」という形で問われることもあります。

 

質の高い研究は,通常考察セクションにおいてこの問いを扱っていますが,多くの研究はこの問いを無視しています。

 

測定に妥当性と信頼性がありそうか

 

測定方法が不適切だと.重要な誤りを引き起こすことがあります。

 

よって測定方法はある程度詳しく記述すべきです(他の文献に記述があるなら,その文献を参考文献として挙げてもよい)。

 

測定方法を批判的に読み,どのように誤差が入り込みうるかを問うべきです。

 

主観を測るような難しい測定には特に注意を払わなければならなりません。

 

多施設で実施する研究のように観察者が2人以上いる場合には,測定方法を標準化するための努力が払われるべきです。

 

測定誤差の問題は考察セクションで取り扱われることがよくありますが,この問題が取り扱われていない場合には,読者は測定に誤差がありえたのではないか,さらにその誤差が重大であったのではないかと問わなければなりません。

 

その際.注意を払うのは,測定方法に妥当性および信頼性がありそうかどうかということです。

 

妥当性のある尺度とは測定しようとしているものを,本当に測定している尺度のことです。

 

たとえば,アルコールの消費量を推定するとき「どのくらいお酒を飲みますか」という問いでは,妥当性のある回答は得られそうにありません。

 

というのは本当の消費量を少なめに言う対象者が多いと思われますが,消費量を多めに言う自慢好きの対象者もいると考えられるからです。

 

信頼性のある尺度とは,2回以上用いたときも,同様の結果を与える尺度です。

 

たとえば,成人の身長は1日の間.ほんのわずかしか変動していないので,理屈のうえでは,信頼性をもって測定しうるはずです。

 

しかし実際には,その人の立ち方,測定道具の設置の仕方,靴を履いているか否かといった多くの要因のせいで.測定値に違いが出ます。

 

質の高い研究には,妥当性と信頼性をいかに吟味したかを論じているという特徴があります。

 

統計手法を記述しているか

 

用いた統計手法は,方法のセクションで記述し,さらにその参考文献を載せなければなりません。

 

統計分析が不適切だと.誤った結果が出ることがあります。

 

統計的検定はすべて分析するデータに関して何らかの前提を置いており,この前提に関する問題が明示的に取り扱われているのは.よい兆候です。

 

統計手法の正当性に疑いがあれば.統計の専門家に相談することをすすめます。

 

一般的でない統計的検定を使用しているのは一つの危険信号です。

 

その検定が与える値ゆえに、その検定法が選ばれたのかもしれません。

 

研究で示されている結果が.高度な統計手法によってのみ得られたときには,その懸念が強まります。

 

まず単純な分析を示し,次いで単純な分析をより複雑な分析と比較すべきです。

 

たくさんの検定が行なわれているというのももう一つの危険信号です。

 

検定の数が多くなるほど本来は有意でないのに有意な結果が生じる可能性が高くなります。

 

研究中予期せぬできごとが発生しなかったか

 

構想していた研究デザインの通りに実施することが困難だと判明する研究もあります。

 

対象者と接触できないかもしれないですし、接触できても.対象者が姿を消してしまうかもしれません。

 

また,対象者の一部について.測定が行なえないことが判明するかもしれません。

 

この種の問題の大半は,研究に着手する前に気づいて予備的研究(pilot study)で対処しておくべきです。

 

主たる研究が始まってからこの種の問題が生じるということは,準備が不適切だったということを示しています。

 

欠損データが大量にあると,バイアスが入り込む余地がたくさんあります。

 

さらに深刻なのは,研究実施中に生じた問題により,研究デザインを変更することです。

 

このような研究デザインの変更は.きちんと考えずに行なわれてしまい,より大きな問題を生む可能性があります。

 

たとえば研究デザインの変更前に収集したデータは.変更後に収集したデータと一貫性がなくなってしまうことがあります。

 

予期せぬできごとには,本当に予測できず,研究者にはどうにもならないものもありますが,こうしたできごとがあるということ自体は研究の質に問題がある兆候です。

 

基本的なデータを適切に記述しているか

 

すべての研究は,調査した対象者の数や,どうやってその対象者を集めたかを報告しなければなりません。

 

通常は,主要な測定の平均あるいは中央値,対象者がどのくらい異なっているかという指標(たとえば標準偏差や四分位範囲)を示して,対象者の基本的な特徴を記述します。

 

こうした情報によって,知見がどの程度一般化できるか,読者の臨床実務と関連しそうかを評価できます。

 

研究は,サンプルの分析から始め,その主な結果を簡単な図表で示すべきです。

 

これにより読者はデータに起こっていることが理解できます。

 

たくさんの要因の効果を同時に調べる複雑な統計手法は,単純な分析の後に示すべきです。

 

普通,精緻な分析によって得られる知見は,より単純な分析で得られる知見と合致します。

 

精緻な分析と単純な分析の間に何らかの食い違いがあれば.詳細に説明しなければなりません。

 

数字はつじつまが合うか

 

研究の途中で,対象者を欠損してしまうことがあります。

 

欠損は.対象者が本当にいなくなってしまったり,その対象者に対して行なった測定を最終報告書に含まなかったりす るために起きます。

 

論文の多くは,1つのデータをいろいろな方法で分割している表をいくつも含んでいます。

 

こうした表を見れば,欠けてしまった対象者や欠損データがあるかどうかをチェックする機会が得られます。

 

理想的には,すべての表において,対象者数の合計は,結果セクションの冒頭で述べられた数と合致するはずです。

 

なお,対象者数は,方法のセクションに記載されることもあります。

 

対象者数の合計が合致しない場合,その理由は,文中で説明されなければなりません。

 

説明がないということは,手抜きということです。

 

著者は.表のタイプミスをチェックしなかったのかもしれないし,欠損データがもたらす結果について気にしていないのかもしれません。

 

不一致がわずか(1%程度)であれば知見に対して大きな影響を及ぼすことはまずありませんが,不一致が大きければ重大な危険情報となります。

 

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